Guest 川口芳矢さん

「動物園のにおいから見る日常」


動物園へ行く

Q:皆さん、いつ動物園にいきましたか?

A:参加者たち:覚えてないなあ。/動物園は好きなのに、年単位で行ってないですね。/去年行きました。

 

芳矢さん:大学の授業で、学生に質問すると、小学生以降、行ったことがないと言う人もいます。世の中には動物園に行かない人が沢山います。今日は、事前に配布した匂いのアイテムを使いながら、金沢動物園はどんな動物園なのか、そして、どんな動物がいるのかをご紹介したいと思います。(マップを見ながら)。

まず、金沢動物園は、横浜市の金沢区にある動物園で、海が見渡せる高台にあります。


珍しい動物

Q:園内マップをぱっと見て、わからない動物がいますか?

A:参加者:*アラビアオリックス /*べアードバク

 

*べアードバク

べアードバクが見られるのは、日本では金沢動物園だけです。横浜市内には、繁殖センターがあり、そこでは、バクの繁殖に力を入れています。繁殖センターでもべアード爆を飼育していますが、一般公開しているのは、金沢動物園のみになります。

 

金沢動物園HPより                               

http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/kanazawa/animal/america/kanazawa12/

 

 


*アラビアオリックス

アラビアオリックスは、アラビア半島の砂漠に住んでいます。牛の仲間。角が細くて長い角が2本生えていて、横から見ると2本が重なって1本に見えることから、“ユニコーン”って呼ばれたりもします。野生では絶滅状態まで個体数が減少しましたが、世界の動物園が協力して、現在では個体数が回復しています。

金沢動物園HPより http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/kanazawa/animal/africa/kanazawa4/

 

スーチョワンバーラルはご存知ですか?

*スーチョワンバーラル

園内マップの24番。ユーラシア区。バーラルは牛、ヤギ、羊などの仲間。太い角が横に伸びている。かっこいい動物なんです。

 金沢動物園HPより http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/kanazawa/animal/eurasia/kanazawa26/

 

 

Q:この地図を見て気がつくことはありますか?動物園といえば!??

A:参加者:ゾウはいるけど、ライオンがいない。トラもいない。大型肉食獣がいない!

 

そうなんです。金沢動物園は草食動物をメインに飼育展示しています。

横浜市には野毛山動物園、ズーラシア、金沢動物園の3つの動物園があって、一つの都市に動物園が3つあるのはかなり珍しいことです。

野毛山動物園は、桜木町にあり、来年70周年を迎えます。昔からある都市型動物園です。

金沢動物園はその後に開園し、再来年40周年を迎えます。園内環境は、檻で動物を囲うデザインだけでなく、なるべく動物たちが自然な状態でいる様子を再現しています。「アフリカ区、ユーラシア区、アメリカ区、オセアニア区」といった、世界の地域ごとに分けて動物を展示しています。

そして、よこはま動物園ズーラシアは、昨年20周年を迎えました。動物だけでなく周囲の植物なども含めて生息地の環境を再現しています。「アジアの熱帯林、亜熱帯の森、オセアニアの草原、中央アジアの高地、日本の山里、アマゾン密林、アフリカの熱帯雨林、アフリカのサバンナ」など世界一周旅行ができるような環境作りで、エリアごとの植栽もそれぞれの地域の景観を再現しています。

野毛山動物園      http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/nogeyama/

 横浜市立金沢動物園    http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/kanazawa/

よこはま動物園ズーラシア http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/zoorasia/

においのアイテム

今まで、ズーラシアで飼育員として働き、もう10年前になりますが、アフリカのウガンダでも働いていた経験があり、今年の4月から、金沢動物園の広報を担当しています。

尚子さんとは、うんちをテーマにしたワークショップ「においでめぐる動物園―くんくんPlanetに出かけようー」をWWFジャパンと共同開発しました。だからと言って、このワークショップで、うんちは参加者に送れない!!!(笑)

別の形で動物園を楽しめるように、においのアイテムを送りました。中身を見てもオッケーです。どうしても視覚で判断しがちなので、中身を見ないで嗅ぐとより違う感覚も味わえます。(動物が食べる干し草が入っている)*イネ科にアレルギーがある方には注意喚起しました。

参加者が、実際に嗅いだ感想

<1番>

秋っぽい。竹、お茶。井草。青臭い。井草が強い。いぐさに引っ張られる。青臭い

2番

2番の方がいぐさっぽい。単純なにおい。家の中にいるにおいに近い。虫の匂い。甲虫が好きそうな匂い。

<3番>

すごく濃い。青臭い。ひもの。わかる!!海苔の匂い。海っぽい。干物(魚)のにおいは近い気がする。青臭いけど発酵臭。濃いにおい。

 

芳矢さん:職員は、3番は濃い匂い。2番は爽やか。ミントっぽい。

1番は動物園ぽい。馬小屋、牛舎のような匂いに感じる。と話していましした。

3番だけ違う匂いに感じるのは、マメ科だから。

チモシーは、ペットショップでもウサギのエサなどとして販売されている1番流通している干し草です。草食動物が多い金沢動物園では、大体の動物が干し草を餌としています。

素材の答え:1番はスーダン(イネ科)

2番はチモシー(イネ科)

3番はルーサン(マメ科)


においアイテム紹介

<1番:スーダン>

Photo:横浜市立金沢動物園

 

稲藁、青草の状態のスーダンを食べるのがゾウなど。

インドゾウは、竹とか、硬い木の枝、幹、皮も食べます。今回、嗅いでもらった干し草は、もともと家畜用に作られている餌なので、栄養価が高い。野生動物にしては栄養が良すぎるため、お腹いっぱい食べてしまうと栄養過多になってしまいます。繊維質が多く栄養価が低い木の枝等も給与して、栄養を取りすぎずに満腹感が得られるように調整しています。


<2番:チモシー>

これらを食べるのが、オオツノヒツジ(金沢動物園のロゴマーク)など。羊の仲間。ぐるっと回った角が特徴的。

写真のチモシーは、2番刈りのチモシーで、より柔らかい草の状態。これは、種から芽吹いて育ったチモシー(1番刈り)を一度刈り取った後に再び成長したもので、1番刈りと2番刈りでは若干栄養価も変わります。

Photo:横浜市立金沢動物園


<3番:ルーサン>

Photo:横浜市立金沢動物園

ルーサンを食べているのは、クロサイなど。

奥の入れ物に入っているのが、人参、ルーサンを圧縮したヘイキューブ。青草(乾燥していない草)の前にあるのがルーサン。マテバシイの木の枝。

 

クロサイの口元は上唇が尖っている。クロサイにとっては、この唇が重要。この上唇を使って、枝から木の葉っぱを手繰り寄せて食べます。しかし、シロサイは、上唇が尖ってなく平らになっています。シロサイは、幅広い上唇。地には生えている草を食べるから。唇の形がワイドになっていることから、ワイド→ホワイトサイとなったとも言われています。


Photo:横浜市立金沢動物園

キリンの餌は?

ルーサンは、マメ科なので、タンパク質豊富で栄養価が高い。写真の餌は、クロサイの餌と比べるとペレットが小さい。キリンの餌は、高い場所に設置され、いわゆる建物の2階に相当する高さです。

野生では、長い舌でトゲがあるアカシアを手繰り寄せて食べています。

 

一言に草食動物といっても、主に草を食べるのか、主に木の葉を食べるのかなど動物によって食べるものが違います。また、干し草も種類がいろいろあります。環境に応じて、飼育員がメニューを考えて餌を作って与えています。

また、成長段階によっても違うので、若い個体(成長期)にはたくさん栄養が必要ですし、老齢の個体には、必要ならサプリメントなどで補うこともあります。

 

アフリカに住んでいる動物だからといって、もともと暮らしている場所と同じ食料(餌)は与えられません。日本で手に入るもので、その動物に適している食材を選びます。



Q&Aコーナー

Q:動物もアレルギーがありますか?

A:ニホンザルで、スギ花粉のアレルギー、同様にクマの仲間も急に痒がった症状があり、何かの花粉が影響しているかも、ということはありました。しかし、全ての個体がそれに反応するわけではなく、これは、まれなケースですね。

人間と違って、動物は、自分の体に合わないものは食べないです。少し食べて、様子を見て、大丈夫そうなら食べるといった感じです。アレルギー反応が出るほどは、本能的に食べない。そもそも野生では多種多様なものを食べています。アレルギー反応が出るほど一つの食べ物をたくさん食べることはないのでしょう。

 

 

Q:コロナ自粛期間中で、動物に変化はありましたか?

A:コロナの時期に約3ヶ月間、閉園していたので、新聞社などマスコミから動物たちの変化を質問されたけど、動物はあまり変化がなかった。

なぜなら、動物園だと、必要な食べ物が毎日もらえるし、普段通りに過ごして運動もすることができるから。唯一の変化は、お客さんがいないという状況だけ。

金沢動物園には、カンガルーを近距離で見られる「ウォークスルーエリア」があり、カンガルーの展示場の中をお客さんが歩いて鑑賞しています。緊急事態宣言が終わって再開園するときは、普段カンガルーの飼育を担当していない職員がウォークスルーエリアを歩いたり、バギーや車椅子を押したりして、お客さんがいた状況を思い出してもらいました。再開園してからしばらくは、カンガルーのウォークスルーエリアは開放せず、カンガルーたちがお客さんがいる状況に慣れてから再開しました。

 

 

Q:動物はびっくりすると、どんな状態になる?

A:びっくりするとまず固まります。まずじっとして、それ以上接近すると逃げる。

 

 

Q:動物の餌について、季節によってかわりますか?年間通して同じなのか?

A:もともとニホンザルやツキノワグマなど日本で暮らす動物は、夏に向けて毛が抜け、秋にはたくさん食べて皮下脂肪を蓄え、冬に向けて冬毛に変わりフサフサになります。暖かい熱帯などに住んでいる動物などは、一年中暖かい環境なので、季節によって体が変化する機能そのものがもともとあまり備わっていません。

例えば、オカピは、熱帯雨林に住んでいますが、日本の季節変化の中で、秋に皮下脂肪をつけさせようとして餌を増やしても、ある程度は体重が増えたりもするけど、脂肪はつきません。そのため、物理的に対処して、室内展示や、部屋を暖かくするなど寒さを防ぐ対応をします。

寒い地方の動物は寒さに耐えられるように脂肪がつきやすいので、同じ様に餌を与えると太ってしまいます。餌の量や質、運動量などで調整します。

 

 

Q:アフリカのソマリアにいっていたことがあります。砂漠にトゲがある植物を動物が食べているのですが、動物たちは口の中は痛くないのですか?

A:象もトゲトゲした植物をバリバリたべます。実は、トゲトゲの植物は美味しいらしい。

植物として、自分の身をトゲで外敵から守っています。動物がそのトゲを気にしなければ、おいしい食事にありつけます。

以前、マレーバクの飼育担当の時、マレーバクの展示エリアに柊木が植えてあって、トゲトゲだから食べないだろうということで植えられたらしいのですが、バリバリ食べていて驚きました。結構あっという間になくなってしまいました。

 

参加者よりアドバイス:柊木は、老木になるとトゲがなくなり、若い葉っぱ、若くて元気な時はおいしい。年を重ねて丸くなるのかしら。

 

芳矢さん:木の葉も新芽と成熟した葉では、栄養成分が異なります。

葉っぱを主食としている動物の中には、新芽を好んで食べるものもいます。寒い冬がある日本には、彼らが住んでいる東南アジアのように、新芽が一年中ある訳ではありません。アカアシドゥクラングールという木の葉を主食とするサルは、特に新芽を好んで選び食べます。冬場は新芽が無いので、飼育担当をしいていた当時、常に食べてくれる葉っぱを探していました。サルと同じような目線で「あの葉っぱ、うまそうだな」なんて樹木を見ていました。

 

 

Q:動物園のイベントは、秋はありますか?

A:横浜市立の動物園は、神奈川警戒アラートが出ている時は、お客さんが密集・密接になる状況を作らないために、ガイドやイベントを中止するという方針です。動物園はオープンしているけれど、密にならないようにしています。

9月の4連休もイベントを企画していましたが、中止になりました。

 

 

Q:動物のにおいを感じますか?

A:よこはま動物園ズーラシアは、動物展示とお客さんとの間に堀が作られ、距離があります。また、園内に植物が多く植栽の浄化作用なのか、園内はいわゆる動物園の匂いがあまりしません。

昔の檻が並んでいた動物園では匂いも密集しているので、強く感じたかもしれませんが、世界的な流れとして、飼育動物の福祉を向上することが求められます。古いタイプ都市型動物園である野毛山動物園も、2つの檻をつなげて使用したり、床だけでなく台などを設けて3次元的に利用できるようにしたりして動物が活動できる空間を確保するよう変化してきています。

 

 

Q:動物の世話をしている時に気にしていることはありますか?

A:動物も体調によって匂いが異なります。お腹を壊していると匂いが強くなったり、体臭が変わります。ライオンとトラは同じネコ科であってもそれぞれ匂いが違います。トラの方が香ばしい。(芳矢さん主観)

「あれ、今日は匂いが違うね!」と思う時は、何か体調に変化があったりします。

例えば、血液の鉄っぽい匂いがする時は、サルに生理がきていたなど。繁殖に向けて発情周期を知る上で非常に重要な情報です。

動物は匂いをもっと敏感にお互い感じているだろう。と思います。

 

 

Q:例えば、ゾウの場合、一頭の一食分の食費はどのくらいなのでしょうか?

A:横浜の動物園では個別の食費は公開していません。

一般的に動物園業界で食費がかかると言われているのは、偏食傾向がある動物です。例えば、パンダやコアラなど。

金沢動物園だとコアラです。ユーカリしか食べないので、栽培してもらっている農場から納品していただきます。ユーカリは、寒い時期は横浜では育たないので、冬は鹿児島や沖縄からの空輸になります。ユーカリは約600種ありますが、コアラが食べるのは2030種類。金沢動物園では嗜好性などを考慮して10種類くらいを栽培してもらっています。個体によって好みが異なりますし、日によって好き嫌いが変わるため、常時56種類を混ぜて束にして給与します。

そして、コアラのうんちはいい匂いがします。アロマのにおい!!ちなみに、パンダは笹を食べているから、笹の発酵したいい匂いがします。

 

また、コアラの展示デザインは、どこの動物園も同じ様に見えると思いますが、これは、コアラを受け入れるにあたりオーストラリアから推奨される環境デザインがあるためです。

 

 

Q:現在、自然災害でカリフォルニアやオーストラリアなどで動物がたくさん亡くなっていますが、動物園も何か世界的な連携アクションはありますか?

A:動物で暮らす動物たちは、日本にいる僕らに、野生で暮らす仲間や生息地の現状を考えてもらうためのメッセンジャーでもあると思います。昔は、王族が見世物小屋のような意味で動物園を扱っていたけれど、近代の動物園は、多様は生きものが地球上には住んでいること、中には絶滅しそうな状況にある生きものがいること、そんな状況がなぜ起こっていて私たちはどう暮らしていくのかを伝え考えてもらう教育施設です。日本の動物園から東南アジアやアフリカなど世界へ思いを馳せて欲しい。彼らと私たちでどのような未来を築くかを考えてもらいたいと思っています。

 

 

Q:今まで飼育した動物の中で一番印象深い匂いを放っていた動物はいますか?

A:肉食獣は匂いが強いですね。あと、イヌ科は匂いが強いです。うんちのにおいで言うと、お客さんはサルのにおいを臭いていう傾向がありますね。なんでも食べる雑食なので、食性からも自分のと匂いが似てるんですよね。ダイレクトに想像できる!!!!!

 

くんくんよりA:「においでめぐる動物園―くんくんplanetに出かけようー」スタンプラリーでは、ゴリラやアカアシドゥクラングールのウンチの匂いが臭いと言われていました。参加者のお姉さんが「今朝の私の!!」と言われたことがあり、お姉さんのうんちは、こんな匂いをしているんだと思ったりしました。

このイベントを3年間、様々な動物園で開催していたので、今年は、コロナで全てが中止になった為、うんちの匂いが恋しく感じます。ゾウ、キリン、パンダは、干し草が発酵したいい香り!ほとんど癒しの匂いです。

猫を飼っている人たちは、ネコ科のトラやライオンのうんちは、そんなにくさくないと言う人もいました。

 

*参考リンク:においの惑星 https://www.wwf.or.jp/campaign/kunkunplanet/unkotoba/#wheel-lineup

 

 

Q:犬はなぜ臭い?

A:イヌ科は、全般的に臭い。タヌキ、ドール、ヤブイヌ、リカオンなど。

各種の展示付近でクサイ!と思うのは、犬は嗅覚が強いので匂いのコミュニケーションツールにしているのではないでしょうかね。

 

 

Q:ウガンダにいた時のことを聞かせてください。

A:アフリカに住んでいる人はライオン、ゾウ、キリンを誰もが見たことがあると思いがちですが、都市に住む人たちは見たことがない人がほとんどです。野生動物のこと等、ほとんど知りません。日本と同じように動物園で、初めて動物について知り、学ぶのです。

チンパンジーが生息する森に隣接する村に住んでいる人も、チンパンジーを見たことがない人はたくさんいます。チンパンジーとヒヒを同じだと思っている人も多いです。

動物園に関して言うと、日本は動物園水族館の数がとても多く、世界中にある動物園水族館の内、約10%が日本にあるというデータがあります。昔から日本人は動物園が好きなんですね。